『ドイツ再生の背景にあるもの』
慶応大学八木輝明教授が翻訳され、慶応義塾大学出版会からこの7月に出版された「せめて一時間だけでもーホロコーストからの生還」は、ただ単なる翻訳本ではありませんでした。
ドイツ復興の謎を解くヒントが秘められていました。
ナチ統制下、ベルリンで生き抜いた一人のジュイッシュの音楽家からの聞き取りにより、ペーター・シュナイダー氏が書いたドイツ語の翻訳版ですが、その後のドイツ再生の動きを簡潔に翻訳者自らが書き記した24ページにも及ぶ「あとがきに代えて」はとても参考になるものでした。
又、登場人物30人の戦後辿った経緯を簡潔に纏められた「人々の戦後」(Biographische Hinweise nach 1945)もこれまで殆ど見たことのない親切な記述でもあります。ペーター・シュナイダー氏の心意気が伝わってくるようです。
実は、先の日曜日朝日新聞朝刊の読書欄にその書評が掲載されておりましたが、その中味の浅さに驚き、憤りすら覚えています。
八木教授があえてこの本を翻訳された意図や、この原書のドイツにおける歴史的意義など、全く解していない書評に堪えがたいものを感じました。
私のような浅学な者からみても、ドイツ語を学んでいる立場からもこの翻訳は素晴らしいと感心いたしておりますが、教授が後書きに掲載された「過去との対峙ーあとがきに代えて」はナチ並びに戦後ドイツの心の復興という面から、とても貴重な内容です。
新生ドイツの起動力となったのは、戦時下でもこの種の「市民の勇気」が根底にあったからであり、戦後ドイツの「過去の克服」に繋がったものと思います。
第二次大戦の敗戦とその後のベルリン分割、そして東西統一という大きな負の遺産を継承したにもかかわらず、欧州の中核としてEU結成をすすめ、環境問題では世界をリードする国家にまで復興、成長したドイツには、敬服の念を禁じえません。
このような背景を少しでも理解できれば、環境問題への私たちの理解はもっと深まり、一段高いレベルでの取組みができるようになるのでと思っています。
この本の題「せめて一時間だけでも」は、この本を読んでいきますとその意味が解ってきます。なかなか意味深な表現です。
映画化され、この春上映されました「善き人のためのソナタ」も、一人のゲシュタポ(国家秘密警察)が反政府活動家の盗聴を通じて、人間性を取り戻すという正に「市民の勇気」を主題にした物語です。
是非鑑賞されることをお奨めいたします。この本で作者が意図したことが一層解ってくると思います。